参考になる本など(7)-無境界

無境界/ケン・ウィルバー著 吉福伸逸訳 平河出版社 1986年

ケン・ウィルバーは、1949年アメリカに生まれました。


1960〜70年代のアメリカでは、ベトナム戦争や宗教の崩壊などアメリカ社会の危機状態のなかで、医師や心理職の人達が、伝統的なフロイト心理学から行動主義心理学や人間性心理学、ゲシュタルト・セラピー、瞑想などなど、様々な人達が新旧様々な心理療法を行っていました。


そんな色々な心理学的理論・技法を大きな枠組みのなかに相関的に位置付けて、分かり易く社会に提示しようとしたのがウィルバーです。


「無境界」の核心は、「意識のスペクトル」という、人間のいくつかの意識フェーズを提示したものですが、これを私の言葉で簡単に書いてみたいと思います。


①〜④は意識のフェーズです。
④→①の順で意識が成長するということではなく、一人一人で①〜④の意識をある程度ずつもっているが、その程度には大きな個人差があります。


①宇宙

 →この世界そのものと一体化した意識。
  仏教でいう空(くう)や悟りの状態。


②人間と自然

 →①が人間の「認識」により、二つに分かれる。
  つまり「境界」を作ってしまう。

  自然を客観視したことで、科学の発達が可能になるが、

  一方で環境破壊などを起こす。


③自我と身体

 →②の人間の方がさらに二つに分かれてしまう。

  死を恐れた瞬間から、死を運ぶ身体を遠ざける。

  また、自己治癒力など身体がもたらす野生性を失う。


④頭と心

 →③の自我の方がまたさらに二つに分かれてしまう。

  例えば、受験競争、経済効率優先の社会で、

  それに染まった頭が心の声を聴かなくなる等。


④を原因として③では、うつに伴う倦怠感、自己否定感からくる摂食障害、幻聴などが起こり得ます。
②のひどいものは、資源枯渇や原発事故などでしょう。


現在の日本人にとって④は問題となっていると思いますが、日本古来の自然との融合感は②に対応できますし、「三途の川」やお盆での死者の迎え送りなどの「神話」は③に対応し、①にも到達し得るものだと思います。


この「意識のスペクトル」は、仏教の唯識やイスラム教のスーフィズムと考え方が極めて似ており、時間に淘汰されない、つまり真理、に近いものと私は考えています。



2015年9月3日