参考になる本など(8)-普通がいいという病

普通がいいという病/泉谷閑示著 講談社現代新書 2006年

精神科医の泉谷閑示さんに初めてお会いしたのは2012年の春でした。

現在は師匠と弟子という関係ではないかもしれませんが、ある期間豊かな時間を共にし、私に本当の心理カウンセリングを教えていただいた先生であります


ところで、そもそもなぜ泉谷さんのところに行こうと思ったのかといいますと、ダイヤモンドオンラインの記事「うつにまつわる24の誤解」、

そして今回ご紹介する「普通がいいという病」を読んで、「これは本物だ」と確信したからでした。


どういうところが本物か。

ひとことで言うなら、本の「はじめに」にあるように、

「人間という生き物の根本的な特性を深く理解し、その上で「自分で感じ、自分で考える」という基本に支えられた生き方を回復する」ということについて、腑に落ちることがよく書いてあるから、です。


うつの原因はセロトニンである云々、とか「寛解」は治っていないが安定した状態である云々、などに代表される、分かったようでいて実は分からない状態に無理やり科学的な理屈をつけたり、ネーミングをしたりする、そんなまやかしの空気と正反対の濃密な雰囲気がこの本にはあります。


全編にわたって、気づきの連続なのですが、私が思う最大のポイントを2点挙げてみました。


①人間の仕組みの図を発明したこと

62ページに載っていますが、心と身体と頭の関係をシンプルな図で示しています。

心と身体は分け隔てなく繋がっているが、頭と心の間にはフタがあって、フタが閉まっている時に様々な問題が生じる、というものです。

私もいつも使わせてもらっていますが、クライアントさんの理解や整理に非常に役立っています。

それは、この図が真理をついているからだと思います。


②詩(の力)を心理の世界に適用したこと

随所に様々な詩が引用されています。

詩はイメージを喚起することで、心を豊かにしますが、泉谷さんは詩の力を精神の深いところで働く力ととらえて、精神の本質を表現するのに最適な形式と喝破したのだと思います。

私はクライアントさんの見立てをおこなう際に、詩を描くイメージで接します、すると全体感といいますか骨格のようなもの立ち上がってくることが多いのです。

詩のフィーリングは自分(の感覚)と他者(の感覚)を媒介するものだと私は考えています。


決してカウンセラーだけに書かれたものではありません。

むしろ人間存在について、思索し行動する全ての人に向けて書かれたものです。

この本を読んだだけで、精神的な苦悩から立ち直った方を2人知っています。

私が思いもしないような着想をそれこそ詩から得たり、様々な図から自分の感覚の正しさを思い起こして自信を回復したりしたようです。


下手なカウンセリング(私?(笑))より効果があると思います。

値段も799円と手頃です、心のことでお悩みの方は是非とも一度お読みください。

私はこの本を自分のオフィスに常時数冊備えています。

 

2015年10月27日