うつからのメッセージ-解毒剤

心の解毒剤

先日テレビで「おにぎり3つあった時」という番組を見ていました。

昭和時代の子供にまつわるエピソードがいくつか紹介されているのですが、最後のエピソードに、沖永良部島での「早い成人式」ともいうべき話がありました。

親戚を招いて宴席を開き、宴席の主役の13才になる女の子があいさつをし、着物を着て舞をまう、その後大人として認められるというものです。

 

この儀式の思い出を語った女性は、その日おばあちゃんからおごそかにこう言われたそうです。

「人を恨むな 自分を責めるな」

女性はこの言葉をなにか大切で重いものとして受け止め、このことを両親にも話さずにいました。

 

そして、何十年か後、精神的につらくなった時、この言葉をふと思い出したら、心が楽になったそうです。

 

このおばあちゃんの言葉は、まさに「言霊(ことだま)」といいますか先人の知恵が込められた「神話」だとおもいます。

 

「人を恨むな」は、心理学用語でいう転移(自分の親等に対する感情や行動パターンを他の人にも無意識に適用してしまう)や投影(自分の心内部の感情を無意識のうちに外部で起こったことに置換えてしまう)を連想させます。

「自分を責めるな」は、アタマとココロが分化してしまい、社会生活を送らざるをえない人間が避けて通れない罪悪感という葛藤と関係していると思います。

いずれも多かれ少なかれ誰にでも起こりうるもので、これが悪い方向にひどくなるのが精神的な疾患といえます。

 

親子関係や女性の地位も縛りが強いであろう鬱陶しさ、

島という集団社会の掟も厳しいであろう環境。

 

そういうことを背景にしたおばあちゃんのこの言葉には、

社会の中で生活してゆかねばならない人間の心理に何が起きるのかをよく分かっていた節があります。

それを13才という子供から大人への橋渡しの時期という絶妙のタイミングで伝えるのです

 

そのうえで、特に原因や理由をつけることなく、人を恨む気持ちや自責の念というものは起きるものなんだ、と。

そして、こういう感情があることを覚えておきなさい、もしその時がきてしまっても、そういう感情から距離をとれるから、距離があれば自分で自分を見直すことができるから。

おそらく、こういうことが含意されているのだろうと思います。

 

これは、なんというか心理カウンセリングのエッセンスを短い言葉にぎゅっと凝縮して、タイムカプセルに詰めて本人に託し、何十年か後精神的な危機が訪れた時に召喚される、というすごい知恵だと思います。

これは本当の意味での神話です。絶対的な心の解毒剤です。

 

近代以前、正常に機能している社会では、こういう儀式や神話が世代間を超えた知恵として受け継がれていたのでしょう。

一方、現在の我々の社会ではどうでしょうか?


2016年5月29日