心理のよもやま話-傷ついた治療者

傷ついた治療者

かつて、ユングは「傷ついた治療者」ということを言いました。

心の傷を自ら治した者は、傷ついている苦悩や治し方を身をもって知っているのだから、他者の傷も癒すのが可能だろう、ということです。

 

たしかに、私の身のまわりで、クライアントの役に立つセッションができる人というのは、ほぼ例外なく心の苦悩を体験していると思います。

それは、医師、臨床心理士、特に資格を持たないセラピストなど、その職業・資格に関係ありません。

 

10年以上のうつ状態を体験、自らの生き方の大転換を選び取ったことでうつから立ち直り、その体験をもとに開業している医師、

 

今もって精神の苦悩を抱えながらも、自らの苦悩と向き合う為に心理学・精神療法の研鑽を続け、実力では抜きん出ているカウンセラー、

 

このような人が存在し、地道に活動しています。

 

べつに心の病に限らず、広い意味でのカウンセリングが出来る人の条件に「「常識」から外れた見方が出来る」ことがあると思います。

少々乱暴に言ってしまえば、クライアントは何らかの「変化」の必要性を感じてカウンセリングに来るのに、カウンセラー側がクライアントと同じ次元の見方しかできないのなら、クライアントの化学変化を引き起こす触媒(異物)を提供できない、つまり変化を起こす言葉等を提供できないことになります。

 

いい生活やステイタスのために疑問を持つこと無く大学の医学部に入り、「ラクそうな」精神科を選んで、「教わった通り」の薬物一辺倒の診療をしているかぎり、その医師が患者の苦悩を心の次元で理解できるとは思えません。

臨床心理士も同様で、大学院卒の有資格者が一般企業への就職と同じ次元での「職業」や「コース」として心理職を考えている限り、「常識」の枠の外からの見方をすることはできないでしょう。

 

本当のカウンセリングを可能にするベースとは、予め敷いてあるレールや既成の「知識」から一旦離れて、自分だけの生き方に向かい合った経験をもつこと、それが一番大切と思います。


2016年6月7日