心理のよもやま話-苦悩の果実

苦悩の果実

今回は、心理療法とか人間の生き方のようなものについて、自らの人生においてそれを表現して社会に伝え得た人達を、彼らの自伝・評伝などの著作を紹介しながら、考えてみたいと思います。

 

下記の4つを挙げてみましょう。

 

・フロイト その自我の軌跡/小此木啓吾/NHKブックス

・ユングの生涯/河合隼雄/第三文明社

・私の個人主義/夏目漱石

・セラピストがいかに生きるか/近藤章久/春秋社

 

*上の二つは日本人による評伝です。いずれも入手し易いです。Amazonの中古だと、かなり低価格で購入できます。

三つ目は夏目自身の講演録、下記URLで全文を読めます。

http://www.aozora.gr.jp/cards/000148/files/772_33100.html

四つ目は近藤の自伝。残念ながら絶版で、Amazonの中古でも定価の倍ほど(3,500円くらい)で売られています。

 

さて、ジークムント・フロイト、カール・グスタフ・ユング、夏目漱石、近藤章久という四人に共通しているのは、おおまかに40歳前後で精神的な危機に直面して、数年間苦悩の歳月を過ごしているということです。

 

そして、苦悩を抜けた後には何らかの意義ある仕事を残しています。いや、というよりも苦悩そのもののプロセスのなかに、その後の仕事のエッセンスが既に見られるといった方が正確でしょう。

 

フロイトが1900年頃、44才で創始した「精神分析」という理論は、それまでの4年に渡る自身のうつ状態を自己分析したことが大きなきっかけとなりました。

 

ユングは、1912年から41才になる4年ほどの間、自身の内部において精神病的な幻想の世界に直面し続けました。しかし、その体験をなんとか言語化し、解釈しようとするなかで、集合無意識という概念など心理の重要な分野を築いてゆきます。

(ちなみに、この苦悩の体験などを文章や絵で記したものが「赤の書」というものすごく分厚くて大判の本です。4万円くらいします。)

 

心理の理論というと、何か理論だけが独立して存在し、読めば分かるようなイメージがあるかもしれませんが、実はその反対で、理論は結果に過ぎなく、それを生み出したその人の苦悩や生き様にこそ理論の「本性」があるのだと思います。

(これはサッカーの試合を、ゴールシーンだけを見て満足することと似ています。極論ですが、結果が分かっていても面白いサッカーの試合というものもあるのです。)

 

夏目漱石もイギリス留学中に重いうつ状態になりますが、お仕着せの文壇や借り物の「お勉強」から抜け出し、自分を「主人公」にした文学の世界を掴みとることでうつ状態から立ち直ります。

 

近藤章久は、私のカウンセリングの先生である泉谷閑示氏のそのまた先生で、その「先生の先生」の人生を知ることで、私が学んだカウンセリングの世界をより深めたいという、かなり私個人の事情が入っているのですが、この近藤氏の人生はものすごく面白いので、ご紹介したいと思います。

 

次回は、もう少し詳しく四人の人生や苦悩の中身に踏み込みたいと思います

 

2016年7月17日