サラリーパーソンの護心術2−「盗む」

会社から「盗む」

以前書きました「サラリーパーソンの護心術」では、何人かの方から面白かったという旨の感想を頂いていました。

そこで、調子にのって今回からその続編を書いたみたいと思います。

以前のシリーズでは自分が傷つかないように心身を防御する観点から書きましたが、今回のシリーズでは、会社の力を自分の力に変換してしまう、したたかで攻撃的な観点から書いてゆきます。

この春から社会人生活をスタートさせた方、会社で仕事に慣れようと一生懸命な方などに読んで頂ければ幸いです。

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会社から何かを「盗む」というスタンスは重要です。

もちろんモノやお金を盗むわけではありません。

 

盗んでくるのは、会社という組織に付属しない価値・スキルです。

組織で重要視されがちな、人間関係での慣習や立ち回り方、その元となっている企業文化、組織風土等は盗むに値しません。

それらは、集団を制御するためのルール、エートス(倫理による規範)なので、その性質上そもそも個人で身に付けて培ってゆくことができないものです。

 

盗むのは、自分で身に付けて洗練させてゆくことができるもの、組織か個人かを問わず、社会で活動する際に役立つ実際的な技術です。

 

現在では、海外で働くチャンスは昔と比べてかなり多くなっています。

外国で働くことには、慣れない環境で仕事を遂行せねばというストレスもありますが、組織とは無関係の個人のスキル・感性を磨く機会がたくさんあります。

 

仕事という厳しい環境で身に付けた実践的な語学力は、当然ながら仕事以外の場面でも、後の人生でも大いに役にたちます。

現地で休日などに、日本からの観光旅行ではまず行かないその国の地方都市に行くと、その地で生きる人の飾らない価値観を感じられて、日本で育った自分の価値観を相対化する機会となります。

組織の枠で生きている自分を見直す視点も加えられるでしょう。

それは、人間の幅を広げる、つまり将来の生き方の選択肢が広がることにつながります。

 

海外で仕事をして日々生活すると、自分の心がけ次第でそんなチャンスが無数にあります。

そう思うと、海外勤務に手を挙げてみようかなと思いませんか。

なにせ、通常個人ですることはかなりハードルが高い、労働ビザの申請、現地での住居の確保、生活してゆく為の仕事の提供、これらは全て会社がしてくれるのですから。

 

海外まで話を広げなくても、日本の組織で身に付けられることはいくらでもあります。

 

原価計算はいい例です。

バランスシートを作成するような難しいところまでいかなくても、固定費・変動費を項目ごとに把握する、仕入れコストや経費を抑えるための工夫、売価を設定する為にどれくらい売上をあげればいいかをデータを用いて予測するetc。

実生活でも役に立ちますし、どこの会社に行っても必ず役に立ちます。

経験すれば分かりますが、こういう原価計算の感覚は実践を重ねるほど磨かれて、ある種の勘となって自分の身についてゆきます。スキルとなるのです。

私のように独立して開業しているカウンセラーにも、当然このスキルは不可欠です。

 

アポイントの取り方ひとつにしても、電話する時は相手の都合のいい時間帯を考慮する、過不足なく情報を伝える、相手に対し選択肢を与える、前日にリマインドする等、常識といってもよい細かい作業ですが、これも組織を離れてもどこでもスムーズに仕事や生活をするためのスキルです。

こういう基本動作は、組織に関係なくその人の誠実さや堅実さがもろに出てしまう、という普遍的なメカニズムに思いが至れば、自ずと人生全般におけるこの種のスキルの大事さがわかってきます

 

イヤイヤ仕事をするか、普遍的に応用可能なことを見出して積極的に身に付けるかで、心持ちとしても大きな違いが出てくると思います。

 

「盗む」ことは、つまるところ会社というものを相対化して、客観視することです。

自分と会社は対等だという視点です。

一方、「安定した会社に入ってひと安心だな」「せっかく会社に入ったんだからリストラされないように上司や周囲に気を配ろう」というような気持ちの人は、会社に「所属」しており、会社組織と対等でなく一体化しているので、上記のような「盗む」という感覚は乏しいでしょう。

しかし、本来自分とは異質の思考やルールに自分を丸預けにして一体化させてしまうことがうつ病の要因であることを考えると、組織を客観視していない人達の精神的危うさが浮き彫りになってきて、そういう意味でも会社から「盗む」という姿勢が大切だと思うのです。

 

2017年5月24日