心理のよもやま話−うつ病の真実②:転職

うつ病の真実をリアルにかつ構造的に捉える試み②:仕事を変えようとする思考について

うつ状態のとき、仕事を変えようとする方がおられます。

 

会社にやっとの思いで出勤して、仕事をしようと思うけれど、どうにもこうにも気力が湧いてこない。

初めの頃は「あれ?自分はどうしちゃったんだろう?」と思う。

 

当初は気を使ってくれていた周囲の人間も、数ヶ月経つうちに、腫れ物に触るような態度になり、やがて自分を持て余して疎んじている、ように感じてくる。

そんな環境が、仕事をほとんどしていなかったり、休みがちだったりするのに、給料をもらって会社に居座って皆に迷惑をかけていると感じてしまう自分の罪悪感に拍車をかけて、すごく居たたまれない気分にさせる。

 

そんなとき、いまの仕事の環境をガラリと変えてみたらうまくいくんじゃないか?と思ったり、うつなのは今の会社や仕事の内容が自分に合っていないからなんじゃないか?と思って転職を考える方もいます。

 

ところで、前回簡単に精神構造のことを書きました。

 

「①二次元:ひとつだけのベクトル」というのは、生き方の基本理念が疑うことなく従ってきたものそれひとつだけ、という精神構造です。

うつになる前の構造です。

 

「②二次元:今までのベクトル/それに180度逆行するベクトル」というのが、今までの生き方の理念(ベクトル)に真逆の作用でうつの諸症状(反ベクトル)が生じているといううつの精神構造です。

 

では、うつ状態の真っ最中に会社や仕事を変えると、どのようなことになるでしょうか。

 

それは往々にして、反ベクトルという従来のやり方に異議を唱えているうつの意味を考えずに、従来のベクトル=やり方と同じような作戦をとることになるので、問題は解決しない可能性が高いでしょう。

 

例えば、会社という船に乗りめば人生安心だ、その船で皆と同じ方向を向いて漕ぎ給料をもらうのが仕事なんだ、という考えを保持したままであるなら、今までの船を降りても、河岸に留まり続け、やはり別のしかしおそらく降りた船と同じような船に乗り、同じような仕事をすることになるでしょう。

本人は環境をガラリと変えたつもりでも、精神構造は変わっていません。「②二次元:今までのベクトル/それに180度逆行するベクトル」のなかに居るのに、「①二次元:ひとつだけのベクトル」しか見ていない状態です。

 

本当は、目を別のところに向けて、自分の足で河を離れて田園を歩くことや、道連れを見つけて小型の船を自力で作ることを反ベクトルが囁いているのかもしれないのに・・・。

あるいは、船に乗るのは一日8時間で充分で、漕ぐのを終えれば船を降りて家に帰っていいと視点を変えることかもしれない(多くの人は心理的には、船(会社)を離れて(帰宅して)も船(会社)に乗ったままの精神状態です)。

 

また、そもそも今の会社に居続けるのが切羽詰まるように精神的に息苦しく、会社から脱出・遁走するように独立起業する方もみられます。

そんな場合でも、本人にしてみれば一生懸命に本を読んだり、セミナーに出たりして真剣に将来を案じていますが、多くの場合その人の生き方のベクトルは「偉い先輩の真似をすればうまくいく」というような、いささか根拠の薄い、他人の生き方をなぞるようなものだったりします。

そんなベクトルのままで、しかも逃げ出すような焦燥感で起業をしても、精神構造は変わっていませんから、うまくいく可能性は低いのです。

 

うつの時に大きな決断はするなと言われますが、それは適切な決断ができないからという、これまた抽象的な言い方をされます。

しかし、その意味は、今までと同じベクトルで決断をしても、そのベクトルそのものにストップをかけているのがうつ症状の意味である以上、その決断をしたとすれば、それに反作用するベクトル(うつ症状)がまたもや現れるということになるからなのです。

 

もちろん、反作用の意味を受け止めて、次元を上がった三次元で仕事を変えるなら、全く違う地平での決断になりますから、それはうまくいく可能性が高いでしょう。

 

それには、まず「①二次元:ひとつだけのベクトル」にしがみつかないで、「②二次元:今までのベクトル/それに180度逆行するベクトル=うつ症状」という構造をきっちりと意識することから始めることだと思います。

 

2017年8月25日