心理のよもやま話-一者/二者心理学①

one person/two person psychology①ー序

ジークムント・フロイトが1900年に精神分析という人の心についての理論を着想して以来、様々な理論が考え出されてきました。

 

理論、と書きましたが、いくら脳科学が発達しようとも、人の心の世界は分からないことだらけです。

従い、精神的な悩みを抱える人に対して、実際の治療の現場で、つまりどちらかというと理論よりも臨床でとにかく役に立つ方法を、従来の考えを刷新・更新・折衷等しながら、模索してきたのが精神療法(カウンセリング)の実体です。

 

そのなかでも、one person psychologyの後に、two person psychology の考えが出てきたことは、最大の転機だと考えられますので、今回よりこれを切り口にに私達の身の周りのことについて考えていきたいと思います。

 

one person psychology(一者心理学)は、その名の通り個人単体の心に絞った見方です。

フロイトの考えた「超自我・自我・エス」がその基本型となっています。

 

超自我は幼い頃に親からたたき込まれたしつけ等、いわば親という絶対的存在が自分に内在化され、自分をコントロールする部分ですが、これが強力だと自分というものが育ちません。

 

エスとは本能や感情で、生まれながらに持っている自然なエネルギーですが、これがむきだしのまま表現されると野性動物と変わらないものとなり、社会生活に悪影響がでてきます。

 

そこで、自我というものが育って、超自我という規範やエスのエネルギーをうまく使って調整しながら、自分らしい自我を確立することが心の安定のために必要となってきます。

 

一者心理学はこのように、自力でしっかり安定した人間に成長するという個人単独の雰囲気が色濃くでている考え方です。

 

1980年代からでてきたtwo person psychology(二者心理学) は、人は生まれてから死ぬまでずっと、自分を支えたり勇気づけてくれる存在(自己対象といいます)が必要だという理論、といいますか現場での臨床から出てきた経験に基づく考え方です。

 

生まれたばかりの赤ちゃんは様々な母親との交流を通して、満足・喜び・悲しみ・苦痛・感謝・後ろめたさ等の多様な情動を豊かに育てます。

そして、そんなこんな色んなことを全て無条件に面倒みて見守ってくれる母親の存在を自分の内部に取り込んで、母親がそばにいなくても自分の心に安心感や安定感を与えるもの=自己対象として、育てていきます。

このことが大切な無条件の自己肯定感を養います。

 

成長するにつれ、自己対象はより洗練されますが、あこがれをもって尊敬する師匠だったり、強い面弱い面含めてさらけ出し誠実につきあってくれる友人だったりもします。

母親から対象は変われど、この際もまた現実の人間とつきあうなかで、いわばつきあう人達の人間性が自己対象となって自分のなかで育って自分の人格を支え、内容豊かにしていきます。

 

その自己対象の洗練の極地というべきものは、おそらく人間性が昇華した神性でしょう。

神への愛を自らの内部に育てあげて(育てあげようとして)生きる人、それを意識しないまでも色々な仕事や活動を通して神性というべき営みに生きる人。

 

二者心理学は、自力での心の成長というより、いたわりや余裕をもって、お互い支え合い、ときにはお互い高め合い、より自分らしく生きれればいいね、という雰囲気の考え方です。

 

次回より、身の周りの例を通してこれら2つの考え方を見ていきます。

 

2017年10月8日