心理のよもやま話−一者/二者心理学⑤

one person/two person psychology⑤−中道

私の好きな映画「リトル・ブッダ」(ベルナルド・ベルトルッチ監督/1993年)のとある場面です。

 

王子としての王宮生活を捨てて、6年間極端な粗食や自分を追い込む修行をしていたシッダールタは、ある日川のほとりで真実にふと気がつきます。

 

川をゆく船上の音楽師が竪琴を鳴らしながら言いました。

「弦の張りは強すぎても弱すぎても、いい音色がでないんだ」

 

シッダールタは、なにげないこの言葉にこめられた真実から、自分の今までの修行方法が間違っていたことに思い至ります。

 

「苦楽の両極端に悟りへの道はない」

 

苦とはついさっきまで6年間も自分がやっていた修行。

楽とは6年前まで、何不自由なく、人の病気や死から目をそむけて暮らしていた王子時代の自分。

 

さて、苦は一者心理学、楽は二者心理学と言うこともできます。

 

自我を強くすることにこだわり過ぎると、本末転倒、超自我が自我を破壊してしまう(極端な一者心理学)。

 

自己対象を豊かにすることにこだわり過ぎると、手段が目的となって、他者依存になり、自己という中心が貧弱になってしまう(極端な二者心理学)。

 

現実には、人生の様々な場面で、人は無意識に一者心理学と二者心理学をミックスさせて使っています、つまり中道です。

言い換えると、中道を外れ過ぎたところに精神的な苦しみ・異常が表れてくる。

 

近年、対人関係が専門の心理学者は「人は相対する人の数だけパーソナリティを持っている」と言うくらい、人はフレキシブルに心理機能を操っているようです。

人間の心はモザイクだと言われるゆえんです。

 

ちなみにこのことは、医療という、いちかゼロかという両極端の判別や分析にこだわる「科学」が心理にアプローチしきれないゆえんだとも思われます。

 

2017年11月7日