心についてのメモ書き−技法の応用⑥

カウンセリングの技法を日常会話へ応用する⑥ー書かない

どうも学校時代の勉強のくせでしょうか、あるいは何か重要なことはメモをとらなければいけないという半ば無意識の強迫観念からでしょうか、人と会って話をする時に、一生懸命メモをとる人をよく見かけます。

まるで、そうすることが誠実さの証であるかのように。

 

書くことは情報を確実に残すには便利です。

書籍だって、この文章だって、書くことで誰かに読まれ、何かを伝え得ます。

 

しかし、人と会話、しかも少人数であればあるほど、発言内容を書くことで、書いている人からは重要な情報が抜け落ちていきます。

 

前回書いた「あいづち」と関連するのですが、人間の発信するメッセージは言語(バーバル)の他に、音色(ヴォーカル)・表情・姿勢・雰囲気等があります。

して、書くという行為は、どうしても言語のみにフォーカスします、書いている最中に「これはどういう意味なんだっけ?」とか、書いている文章を意味が分かる文章に組み立てようとして若干考える等々、言語の持つ意味の世界だけを深掘りしていく感があります。

 

そうしますと、どうしても相手の表情・姿勢・雰囲気等への注意は希薄になります。

固定できる情報を残すことやそれに必要な思考に集中するあまり、目の前のライブで表現されているメッセージを受取り損ない、味わい損ねるのです。

 

言語以外のメッセージがいかに大事か。

端的に、カウンセリングの場で、カウンセラーがメモをとった場合ととらなかった場合を比べると、違いははっきりしています。

メモをとって来歴を把握し、見立てを的確に行ったつもりでも、クライアントは満足していない場合がほとんどです。

 

クライアントは、言語に変換された意味だけでなく、その背後にある情感をも分かってほしいと思っています。

だいいち、クライアント自身、自分の気持ちや状態を正確な言語に変換することが難しい状態にあることが多いのです。

しかし、底流にある情感自体は隠しようもなく、表情や雰囲気に現れていますので、そこにフォーカスすることが肝心なのです。

そうするためには、カウンセラーはメモをとっている余裕はないはずで、リラックスしながらも五感を研ぎ澄まし、色んなメッセージを汲み上げるのです。

 

不思議と、そのように五感を使ってセッションした後でも、必要な言語情報は頭に残っているもので、クライアントの言語以外の情報も味わい直しながら、要点をノートに記しておくと、別の見方が浮かび上がってきたりして、広がりのある記録になります。

 

そういうわけで、(頻繁に)メモをとるカウンセラーはまず信用おけませんし、営業や援助職の方は一度メモを取るのを事後にして、お客さんの表情や息づかい等に注意を向けると、結局は営業成績が上がる?かもしれません。

 

2018年1月9日