心についてのメモ書き−アイデンティティと神話④

神話の骨格

神話として有名なものは、西洋でいえばホメーロスの叙事詩、ソフォクレスの「オイディプス王」やシェークスピアの戯曲、東洋でいえば「杜子春」や日本のイザナギノミコトの冥界くだり、などがあります。

 

そのどれもに共通しているコンセプトは何かといえば、次の二つがあると思います。

 

① 「喪失→出立→冒険→帰還」のストーリー

 

② ①の旅を通じて/大事な場面で登場する「お手本となる/共に旅してくれる人物や存在」

 

①と②はセットです。

そして、それぞれに多重性を持った意味合いが隠されています。

 

まず、②を親密な共同体とすれば、①は都市で孤独にアイデンティティを探し求める姿です。

 

以前書きました一者心理学と二者心理学の文脈で言うなら、もちろん①は強い自我を作るために自身の内面にフォーカスする側面、②は豊かな自己を醸成するための他人や社会との多様な関わり方(自己対象)でしょう。

 

もっと簡潔に言うなら、①は意識、②は無意識です。

 

わかり易い例では、①はクライアント、②はカウンセラーとみることも可能です。

 

あるいは、①の「喪失→出立→冒険→帰還」は一見英雄重視で、狩猟民族的かつ男性優位的な考えが強く出ていると感じられますが、

「長い冬→種まき→育成→収穫」と捉えれば、大地に根ざした農耕民族的で母性優位な考えに受け取ることも可能です。

 

このように神話は、メタファーとして捉えることが出来るので(またそう捉えないとその意味深さが味わえない)、したがい思想的な広がりをもった物語といえます。

人間の本能や感情、理性などを総合的にかつ本質的に汲み取ったものなので、洋の東西、今昔を問わず、人間の生き方に適用可能なものなのです。

 

上記の①と②がセットになっている理由は、どちらも人間の成長・成熟にとって不可欠な要素だからです。

そして、帰還あるいは収穫というクライマックスに向かって①と②は統合されてゆきます。

つまりアイデンティティの確立です。

 

次回は具体的な神話を題材に考えてゆきます。

 

2018年4月3日