心についてのメモ書き−AC②

脳との関係

まずはトラウマと脳との関係を見ていきます。

脳の大まかな構造を押さえておくことで、トラウマが発生する背景、そして回復への方向性をイメージしやすくなるからです。

 

脳は三層構造をしています。

一番奥深くの核となる部分には①脳幹、それを②大脳辺縁系が包み込む感じで存在し、さらにその上や周りに③大脳新皮質があります。

 

私がよく使う用語(カラダ/ココロ/アタマ)も交えて説明すれば、

 

①脳幹はカラダを司ります。

動物としての最も基本的な呼吸や消化吸収等のインフラを受け持つ所です。

当然生物進化の歴史は古く、ヒトという種の時間の積み重ねに耐えて進化・適応してきたので、その機能は信頼性抜群で、メカニズムも正確です。

 

走って酸素が必要なら自然に息が早くなる、栄養を補充すべきときに食欲が湧いてお腹が鳴る、脳や体を休めるときには眠気がおこってくるetc。

「不随意」なので、意識でコントロールすることはほぼできません。

 

②大脳辺縁系はココロを担当しています。

感情や意欲等の源ですが、この部分は生まれてから6歳くらいまでに養育者つまり親との情動のやり取りを通して、動物としてのヒトに加え、人間としての基本的な情操の表現・人間関係のやりとりの仕方、なによりも他者そして自分自身への信頼感覚といったものを蓄積していきます。

ヒトが人間たるゆえんはこの大脳辺縁系にあるのです。

 

脳幹に次いで歴史は古く、相応の信頼性はあるのですが、カラダと違ってなにしろ生まれてから習得する機能もあるので、誤った養育であれば後々問題が生じます。

子ども時代に習得した情動のパターンが「無意識」としてこの部分にインプットされますが、辺縁系は機能自体はしっかりしていますので、簡単に修正はできません。

ですので、精神療法を行う際にも色々な配慮が必要となってきます。

 

③大脳新皮質は一番表層にあって、我々お馴染みの計画や計算、過去・未来への心配等が得意な所です、これはもちろんアタマです。

カラダやココロに比べて生物進化の歴史は浅く、機能自体の信頼性はあまり高くありませんが、知性や理性を生かしていくのに欠かせない部分でもあります。

また、ココロの機能が損なわれると問題が大きいのに比べて、アタマの機能が少々不足しても大きな問題にはなりませんし、修正も比較的容易にできます。

 

ではトラウマがどの部分に関係するかというと、基本的には大脳辺縁系に関係しています。

生後から6歳くらいまでになされる親との情動のやり取りに問題があった時に大脳辺縁系=ココロにACの元となるトラウマができると考えられます。

 

但し、そのトラウマにも軽重があり、暴力や栄養を与えない等のカラダ=脳幹に関係する虐待行為があった場合は、他者への基本的な信頼感覚に問題が生じるのに加え、生存本能すなわち食欲や性欲、身体の安全感覚等の部分にも影響を及ぼすほどの根深いトラウマとなると私は考えています。

大脳辺縁系と脳幹ははっきり分けられるものではなく、相互に関連しているからだと思われます。

 

トラウマが情緒的なやりとりの不全から来る場合は、脳幹までの影響はないにしても、例えば、満たされない親の欲望を良かれと子供に押し付ける、強圧的なしつけをする、あるいは親や家族の意図せざる気まぐれによる世話の一貫性の無さまで、ネグレクトの性質や深浅に応じたココロの傷が残されていってしまいます。

 

上記のような苦しいココロの状態を一時冷凍するために解離が起こります。

苦しい記憶や感情に耐えられず、その場や直後では感情記憶を処理できないと辺縁系が判断したからです。

 

また、解離と同時に、トラウマが起きた際の状況等の記憶が辺縁系に強くインプットされます。

これ自体は再び同じようなことが起きた場合に備えて、自分の身を守るための正常な機能にみえます。

しかし、この機能は解離せざるをえないほどの苦しく怖い記憶と結びついていますので、同様の状況が再び起きた場合に、解離と似たプロセス、つまり無意識のうちに身体が凍りつき、思考停止になるという反応につながります。

 

明確に同じような状況のなかでなくとも、環境(家庭)に適応して生きてゆくのが脳の最優先事項ですから、トラウマ記憶の周辺や連想させるような広い範囲の出来事・身体感覚・感情など様々なことを辺縁系は蓄積していきます。

子どもにとってそれは生きるためのやむを得ない生存戦略ですが、元をただせば、トラウマ時の出来事は守ってくれて当然であるべき親からの侵襲ですから、人間全般に対する情動機能=他者や自分に対する信頼感覚、に様々な不都合が生じてくるのも当然です。

 

この情動の欠損を穴埋めするためにアタマが機能しだします。

しかし、それは「代替機能」に過ぎないので、その代替ぶり(アタマ)と本元(ココロ)との間に必然的に距離ができていき、これ自体も苦しさの原因となります。

 

次回は、ACの様々な症状について具体的にみていきたいと思います。

 

2018年5月14日