心についてのメモ書き−AC⑥

神経症と色々なACのケース

ここで、神経症とACについて少し隘路事項を考えてみます。

 

神経症はアタマのみにダメージがとどめられた状態です。

人間としての基本戦略たる対人関係(大脳辺縁系=ココロ)にも影響があるのがAC、

限定された戦術つまり社会適応/不適応(大脳新皮質=アタマ)に影響がとどまるのが神経症といえると思います。

(ACは前回述べたように、戦略、戦術ともに何らかのダメージがあります。)

 

いわゆる新型うつは、神経症の人です。

子ども時代は大らかに育てられたけれど、10代から社会や世間に適応する方向で色々な枠を課せられて厳しく育てられたケースが多いと思います。

それでも基本的な自己への安心感はできています。

従い、自分を絶対的な安全基地にした対人関係を築く能力(自我境界)は備わっています。

 

新型うつの方は例えば、仕事に関わる/を連想させる環境下ではうつ状態、しかしながら仕事と完全に切り離された旅行や趣味には意欲をもって取り組める、とよく言われるのも、楽しいことを自然に楽しめる基本的情動はしっかりしているけれど、アタマを駆使した仕事への取り組み方(戦術)が情動(ココロ=戦略)と齟齬を起こしている、という具合です。

 

ちなみに、カウンセリングに来談する方だけでなく、ほとんどの日本人はこのケースにあてはまると私はみています。

(これは、つまり日本人=日本社会=神経症ということで、多少の精神的な障害を今の日本は持っているということですが、これについては以前少し書きましたし、また書きたいと思います。)

 

ところで、ACの方の過去の養育環境でも、当然いろんな環境があります。

 

子ども時代に家庭で親の愛情は感じることはできてそれ相応の情緒機能は育ったけれども、たとえば家の外での振る舞いについての躾で、親が「外面(そとづら)を気にする」自らの不安をその躾に込めて子どもに向けた結果、そういう部分の情動記憶だけが「親の不安を強制される」トラウマとして残っているという、安心感がごく一部欠けているケース。

 

あるいは、親がよかれと思って、自由に生きる姿を見せつける、あまり干渉をしない、となると「自分でなんでも考えて決めて、人に頼らずひとりで生きていかなくちゃ駄目なんだ」と思い、親への無条件の甘えで作られる安全基地が不完全なまま人生の旅に出るかっこうになるケース。

成長してベンチャー企業を起業したりしながらも、自分の中に少し空虚な感じを持つかもしれませんが、必ずしも不愉快な感じをココロの奥底深くにまで持っているわけではない。

 

また、親自身の愛情はあったが、同居する他の家族や親族からのネグレクトや攻撃があり、なんらかの理由で親がそれから守ってくれない場合もあり得ます。

親に対する若干のよそよそしさや漠然とした不信感などでやはり安全基地がいまひとつ不十分な気がしますが、根本はしっかりしている。

 

ACの原因に色んな環境があるということは、明確に一線を引いて神経症とACを区別できないケースがほとんどだという気が私はします(明白な虐待・ネグレクトを除く)。

 

親の△と子どもの◯というパーソナリティの違いの話とは少し違いますが、同じACでも、その人のパーソナリティに応じて、アタマの部分が大きくなり過ぎた印象が強い人、あるいはココロの部分の傷が大きい割合が多い人、色々ある気がします。

ですが、これはその人のパーソナリティ=オリジナリティの裏返しでもあり、前者は理性・知性をうまく活かしたアプローチで、後者はセンスや繊細な感情を表現するようなアプローチで、回復につなげることが可能であり、そこに人間が本来持っている治癒力があると思います。

 

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とはいうものの、やはりなんと言っても、親が安定している環境が一番なわけです。

ベストなのは、夫婦が各々母としての安心感、父としての強さ・包容力を子どもにあたえる。また夫婦がパートナーとしてお互い正直に感情をぶつけ合い、助け合う姿を最小単位の社会として子どもに体感させる。

もしも夫婦がよそよそしく、全く信頼関係が崩壊しているならば、子どもはそれを学びますから、親が安定した精神状態でいられるならば、シングルの親のほうがよほど良いのです。

 

また「グッド・イナフ・マザー」(ほどよい母親)という言葉があります。

これは完璧な育児を目指すのではなく、母親が自分自身の人生をまず大切にすることです。

そうすると育児に100%のエネルギーを当てられませんから時々失敗をしたりする、でも子どもはその姿勢から「自分を一番にして生きていいんだ」という至上の情動を学びますし、結果的には子どもが親の手の回らないことも、見よう見まねで学習して行動する、という社会適応につながっていきます。

 

2018年6月12日