心についてのメモ書きーうつ等からぬけた人③

「本物」を見分けられる

「本物」の感覚に敏感になる、ということは、私が言う精神の「構造」が変化したことの端的な結果です。

 

対面で傾聴するカウンセリングスタイルの元祖カール・ロジャース(1902-1987)は、カウンセラーの資質のひとつとして「自己一致」を言いました。

自己一致とは、言行が一致していること、あるいはアタマとココロが一致しているということです。

 

もし、カウンセラーが自分の専門家ぶりをうわべの言葉だけで取り繕おうとしたら、その瞬間虚栄心に傾いたアタマと実は自信がないココロとの間に齟齬が生じます。

自己一致していない状態です。

この種の「構造」は、本質としては自分そして相手への「騙し」ですから、焦りや不誠実の雰囲気がどうしても出てきます。

 

かたや、来談するクライアントはたいていの場合人生の歴史において、自己一致していない親、教師、会社、社会に侵食されて傷つけられてきた人達です。

 

例えばこのような背景で。

 

「あなたのために怒るんだからね」とか言いながら、その実自分の価値基準や欲望を子どもに押し付けているにすぎない親がいます。

もし本当に子どものことを考えているなら、自分の思考や感情を冷静に見つめ、簡単にはそういうことを言えないはずです。

親自身、言行が一致していないため、自分を騙しているヒステリックで窮屈な雰囲気が滲み出ます。

これは本物とは反対の偽物の持つ雰囲気です。

 

子どもの方は、自分のために言ってくれているのにもかかわらず、わけのわからないことで怒られたり無視されて、なんでこんなに苦しいんだろう???と混乱します。

すると、怒られるのは自分が悪いんだ、というふうに思い込み、親が正しいー自分はダメという図式を持つようになってしまいます。

ですが、子どものココロは自分に非がないことを分かっていますから、親が正で自分はダメだと思い込んでいるアタマー自分に非がないことを分かっているココロ、という不一致の構造=偽物の構造が子どもの方にも出来上がります。

こういう構造が後々の苦しみの元となります。

 

ちなみに、このような方のうち、カウンセラーの自己一致度の低さに本能的に感度が高い方もいます。

子どもの頃にさんざん苦しめられたので、身を守るために直感で相手の人間性を察する必要にかられてのことなのでしょう。

 

さて、回復した人達は自己一致しているものとそうでないものを区別することができるようになります。

 

原理的には、

回復するには自分が自己一致する必要がある、

つまり、アタマとココロが一致する必要があり、

それには、アタマとココロが対話して、時には統合する必要があります。

要は、深いところで自分を騙さず正直に、本音で生きるということです。

本音で生きるには、アタマも使い、ココロの動きも繊細に捉える必要があるので、自分の中で生命のダイナミズムが息づいてくるのが分かります。

 

すると、世の中の「本物」というものは全て、理性(アタマ)と心(ココロ)が高いレベルで融合したものである、ことが合点されてきます。

自分もそういう構造に、そういうレベルに、居るから、自ずと分かってくるのです

 

人間でいえば、実直さ・誠実さ(心)、オープンさ・わかり易さ(理性)が渾然一体となった人に関心が向く。

そして、うわべだけの不誠実さを行う人の矛盾を理性で具体的に把握できたり、そういう人に近づかないようにする等の直感的な決断や行動ができるようになる。

 

モノでいえば、素材の良さ(心)、使い勝手の良さ・価格の妥当性(理性)がバランス良くデザインされたモノを選択することが出来る目利きになる。

 

芸術作品なら、ネットや誰かの評判で動くよりも、自分特有の好みを追求することにためらいがなくなります。

心優位の分野なので、それに応じた心の自由さを駆使することが上手になります。

 

あるいは仕事や金銭に対しての価値観が明確になってきます。

こちらは概して理性優位の分野です。

自分の仕事のなかで「本物」の部分を見極めて抽出することができるようになります。

金銭を効率よく使って、自分の心を、自分の本物を実現することにアタマを使うことが得意になってきます。

 

ここは心を出す、ここでは理性を使うという具合に臨機応変さがでてきます。

 

そう考えてくると、本物に出会うこと自体が回復への大きな橋渡しとも言えるのでしょう。

 

2018年8月29日