参考になる本など(15)ー映画「生きる」

映画「生きる」

死的な体験ときたら思い起こすのは、なんといっても黒澤明監督の映画「生きる」です。

1952年の制作ですから65年前、文化ジェネレーションでいえば2世代くらい前のものですが、私が現在見ても違和感がありません。

 

映画の冒頭「この男が生きる意味に本当に気がつくためには30年以上の歳月が必要だ」というナレーションがあります。

主人公は市役所勤めの課長です。

空疎な公務員人生を30年間送り、30年経った後からが映画のストーリーの始まりです。

 

想像ですが、映画に描かれない公務員人生30年間の初めの方は、なんとか自分をだまし、アタマだけでやっていけていたのですが、後半の方はココロが反発して軽いうつ病になっていたんじゃないかと思います。

 

映画の前半、ある重大な問題に直面し、主人公は今までの人生ー家族・仕事・自分とは何かーに向き合わざるを得なくなります。

こんなふうになってはじめて人間は変わる、言い換えるとここまで窮し切らないと人間は変わらないんだなということが痛切に響いてきます。

 

人は本当に頑固だと思いますし、私も含めた様々な人達自身を見るようでもあります。

カウンセラーにとって、長年のロボットのような勤め人生活、その後に来る心身の危機、はけっこうリアリティがあります。

 

印象的なのは、苦悩し、そして自分の生を全うしようとする主人公の、必死さがどうしようもなく現れる表情です。

この表情こそ、真の自己から湧き出るエネルギーであり、自分らしい生き方を掴もうとする心の自己治癒力の現れであると思います。

 

映画の原作はトルストイの「イワン・イリチッチの死」です。

心理カウンセラーが読むべき本として推奨している人もいるくらい精神の根底が描かれています。

 

2018年11月19日