精神症状の構造と回復(12)ー構造⑤

2.構造⑤ー主要な防衛(取り入れ)

「取り入れ」は投影と反対方向、つまり外部のものを自分の内部に取りこんでしまうことです。

 

理屈から言うと自他の境界を乗り越えているので、自我境界は脆弱なはずですが、私の経験上、投影を用いる人より自我境界はしっかりしている気がします。

ですがそれも、元来資質的に我慢強い人が取り入れを用い、一見芯は強そうにみえる、

一方、対人接触の意欲が高い資質の人が投影を用い、一見言動が派手に見えるのかもしれません。

 

さて、取り入れの分かりやすい例として、「人に好かれなさい」と子供に諭しながら、自らも真面目一本に無遅刻無欠勤で会社勤めをし、近所付き合いでも決してイヤな顔をせず、人との付き合いで波風をたてない親、そんな親の元で育てられた子供は、親を「取り入れ」る可能性があります。

 

そんな親自身実は、自分が好かれないと周囲から浮いてしまってこわいとか、会社で目立った普通でない存在になると大変な仕事を押し付けられるんじゃないか等の不安をもっている場合もあります。

つまり親自身が「会社」や「普通」等の価値観を「取り入れ」ているわけです。

ですが、本当の自分を抑圧しているので、相当鬱憤がたまっているのです。

 

子供は、そんな親の生き方に日々接して成長します。

不安を抱えた親はまさに自分の生存戦略に沿った人間になるように無意識に子供に強いますので、子供は親のプレッシャーから自分を「防衛」するために、「取り入れ」を用いることで親に迎合させられ、同時に自分を抑圧します。

 

取り入れは内在化とも言われます。

誰かの生き方や価値観(その背景には社会の価値観がありますが)を自分で吟味することなく、丸呑みして「内在化」することは、抑うつ(うつ病)の基本構造です。

 

あるキャリア官僚が大学に入る前の予備校の試験成績という過去のものを現在の同僚や外部の人にまで自慢するという例も、学歴=人生の幸せという価値観を自らに深く内在化したものです。

 

公務員や大手企業に就職しても、その実仕事の内容を度外視して安定した収入のみを求めた「就社」、つまり「ステイタス」や「安定」を内在化した場合は、仕事が全然面白くないにも関わらず会社を休むとか退職するという決断などもっての他だという心理となり、ついには抑圧された本当の自分が反乱を起こして、ある日会社に行こうにも足が進まない=うつ状態になったりします。

 

この内在化(取り入れ)と抑圧のセット構造が現代日本人の精神症状の大きな比率を占めていると感じます(もうひとつの大きなものは「引きこもり」ですが、それは次回に書きます)。

 

また、幼少期から非常に強迫的な育てられた方を経験した場合は、子どもは親のその「悪い」部分を自分に「取り込み」ます。

 

ですが、その際の取り込み方はというと、「親から悪いケアしかしてもらえていない自分はいずれ親から見捨てられるかもしれない」→「それは親が悪いよりも自分が悪いからそうなるんだ」→「では、見捨てられないように悪い自分を頑張って直していかなければならない」というように、親でなく自分を悪いことにする=悪い自己を「内在化」するという苦しい過程です。

 

親を責めるということは幼児に出来るはずもなく、自分が悪いことにした方がまだましですし、自分のせいならば自分でなんとか改善できる(と思い込めば)、自分のコントロールの範囲内(と思い込めるので)なので、少しはラクなのです。

 

このような人生早期の「取り入れ」により、根深い罪悪感・自己否定感、「〜しなければいけない」等の強迫観念、あるいは親密になったとしてもいずれその人から見捨てられるんじゃないかという不安からの対人依存・攻撃等がつくられ、強い抑うつ状態につながる可能性もあるのです。

 

2019年4月2日