精神症状の構造と回復(14)ー構造⑦

2.構造⑦ー主要な防衛(退行)

退行の例としては、分かりやすい現象で「赤ちゃん返り」が挙げられます。

 

ものごころついた幼稚園くらいの子供でも、お菓子を買って貰えないと「いやだいやだいやだ」と地団太を踏んだりするのは2年くらい時間を退行しているのです。

そのようにして、もはや親から好きな時に好きなことをしてもらえない辛さ、分別をつけて親から自立しなくていけない怖さから自分を守って(防衛)いるわけです。

 

こういう退行はきわめて真っ当な防衛で、自立の怖さと退行を行きつ戻りつしながら、少しづつ自立に向かいます。

その痕跡は大人になっても残っています。

 

本当に厳しい仕事をしている最中に「もう泣きたくなるよ」とぼやくのは退行と言えますし、その仕事を成し遂げた後に「どうだ俺すごいだろ、誰か褒めて褒めて」と打ち上げの席で酔っ払うのも、親の懐へ無意識に退行しています。

これもまた、まあ健康の範疇の防衛で、気を紛らわしたり自分を慰めて英気を養っています。

 

病的な退行になると、例えばここ一番の緊張する仕事のプレゼンテーションの前日に(=自立を強いられる場面)お腹が痛くなり、当日会社を休んでしまう。

これは理屈としては地団駄と同じで、ただし無意識の領域で身体化する方向に退行を用いています。

 

引きこもりと少し似ているように見えますが、引きこもりが幻想であるにせよ自分だけの世界を作っているのに比べて、主体的に考えないでいい、一見心地よい一方的にお世話される世界に無闇に逃避・突入するという点で違いがあります。

 

ですが、いちがいに引きこもりと退行を分けることができない大きなポイントがあります。

退行には創造性の源がある、という決定的な要因です。

病的退行/創造的退行というように、区別して用語を使用したりします。

 

退行して、ゆらゆらたゆたうようなイメージのなかで、原初の自分本来の心地よい感覚を取り戻す、

そこから、幼少時どうしようもなく没頭した遊び等を思い出し、それは今の自分の安らぐ活動の基盤となっている、原初の自分としっかり繋がっていることを理屈抜きで感じ取れる。

 

そこを起点に、つまり創造的退行を起点に、創造的引きこもりの世界に入っていき、自分オリジナルの活動を作り、それを引っさげて、社会に対して接点を見出してゆく=自立してゆく。

そこには、趣味と仕事が一致している、目的と手段が渾然一体となっている人間特有の強さと自由があります。

 

そんなことが環境さえ整えば可能であり、カウンセリングが貢献できることでもあります。

 

*今回で防衛についての項は終わりです。次回からは精神症状に共通の特徴を書いていきます。

 

2019年4月16日