精神症状の構造と回復(19)ーコラム②

<コラム②>カウンセラーはカウンセリングを受けるものなんです

カウンセラーは日々何をしているのか?

 

カウンセリングをしたり、文献を読んだりするのは当たり前のことなので、それ以外の本質的なアクティビティについて挙げてみます。

 

心理カウンセリングに限らず、何かをする時には、まずそれそのものを自分で体験しないことには何も分かりません。

 

例えば、スキューバダイビングひとつとっても、テレビの映像で見るのと、実際自分の身を海まで運び、潜るのとでは経験の質が全く違うのは当然のことです。

わざわざ時間とお金をかけて沖縄やモルジブまで行って、ウェットスーツや酸素ボンベなど重いごちゃごちゃした器具を背負って、下手すると死に直結するような海底に降りてゆく。

 

しかし、そこには地上では決して見ることのできない海と生き物の超絶的に美しい光景がある。

 

例えば、カウンセリングを受けに行こうと思うと、事前に色々考える、順序立てて説明しなければと思ったりする、初回は「このカウンセラーは信用に値するほど力量があり誠実だろうか」と値踏みをする、料金だって安くないし、何回くらい通えばいいのだろうという思いもある。

 

回数を重ねるにつれて、カウンセラーの短いひとことが自分の考えを変化させたり、あるいはなにかいまひとつ分かってくれてないなという感じをもったりする。

 

カウンセラーは、まず自らがカウンセリングを受けることで、自分にどんな気持ちが生じて、それが発酵し、変化してゆくのか、生の体験をしなければなりません。

これはもちろん単なるロールプレイングでなく、ちゃんと料金を払い、真剣にカウンセラー自身の精神的な、あるいは実存的なテーマについて、カウンセリングを受けていきます。

 

この作業は以前書いた「孤独」に向き合う作業と言ってもよいのですが、まず自分という一個の人間の内的なプロセスを見つめることで、はじめて他者=クライアントのプロセスを理屈でなく、体感で感じ取れるようにする、そこに向け努力する、という決定的に重要な意味があります。

 

「人間は自分と折り合える限界内でしか自分以外の人と折り合えない」/ポール・ヴァレリー(1871-1945、フランスの詩人・思想家)。

 

ところで、思うのですが、何故かなりの割合の精神科医がうつ病の方を薬漬けにしたりして、反治療をしてしまうのか。

 

それは自分で自分の施している治療を身をもって受けたことがないからだと思うのです。

まともに顔は見ず、PCに何かをぱちぱち打ち込み、5分で話は打ち切られ、マニュアルに◯個該当するので「あなたは不安神経症です」等と告げられ、薬物の処方箋を渡される。

 

そういう対応を自分が患者として体験したとしたら、どう思うでしょう。
(カウンセラーも同様で、カウンセリングを受けたことのないカウンセラーは眉唾ものだと、まずは思っておくのが安全です)

病院の経営という問題があるにしても、5分の時間内で出来ること、出来ないことを患者の立場、そして医師としての倫理で理解するだけで、少なくとも薬漬けのような医原病は減ると思うのですが。

2019年5月21日