精神症状の構造と回復(25)ー回復へ向けて②

4.回復へ向けて②ー基本設定(抱え環境)

カウンセリングの基礎・土台は、「抱え」の環境です。

抱え環境、とは人が安心して、自分の感情を表す、心を開いて感じることを遠慮することなく言葉にできる、そういう場あるいは雰囲気のことです。

 

物理的には、第三者から遮断された密室で、音の無い静かな環境がまず挙げられます。

清潔な部屋、適度な室温、座り心地の良いソファ等も当然のことです。

 

落ち着いた環境ながら、カウンセラーと物理的に適度な距離を保つことにも配慮します。

カウンセリングは、カウンセラーがクライアントと一緒になって嘆き悲しむ(同情)ことではなく、クライアントが自分で自分を見つめ直し、葛藤にも持ち堪えられるようにするためのものですから、「ひとり」で内省できる空間も大切にします。

 

守秘義務は、上記も含めた意味合いで、「抱え」を保証する核になる約束事項です。

誰の目も気にしなくていい、社会の常識にさえ縛られなくていい、ここで話したことは一切外には漏れない、そう保証されることではじめて、今まで誰にも言えなかったことを心のままに語ることが可能になり、カウンセリングの準備体験としての「吐き出してスッキリした」感覚が生まれます。

 

カウンセラーの誠実に話を聞く姿勢や明確な応答は、抱え構造にエネルギーを与え続ける燃料と言えます。

例えば、前回書いたような動機や目的を、初回だけでなく、折に触れお互いに確認します。

 

いわゆる「主訴」は、ただ一つという場合は少なく、内容も少しづつ変化してゆくことが多いからです。

すると、クライアントは自分のことを継続的に受け止めてもらっている感じ=安全基地の感覚がたしかになりますから、より安心して自分のことに集中できるようになります。

 

世間で言われる「傾聴」は初歩的には上記のような意味で運用されていると思います。

 

カウンセリングの場を離れても、病態が深くなければ、上記の抱え環境類似の状況だけで回復しているケースが相当数あるはずです。

飼っている猫を抱いてる時、夜月や星空を眺める時、かつての親しい人を思い浮かべる時、具体的な応答がなくても、元気づけられたりするのは、自分なりの「抱え」環境に居るからです。

 

そこには、その人が幼い頃に感じたであろう、もしくは欲したであろう親等との安心できる雰囲気や対象=その人固有の安全基地のイメージが根底にあるはずです。

その根底イメージは、やはり物理的にも人間関係的にも落ち着いて親密な、しかもそれが継続する環境でしょうから、それをカウンセリングの場でもなるべく再現しようとするものです。

 

そんな抱えだけで立ち直ってゆくのが、自己治癒力が発動した自然な状態ですから、本当はそれが一番いいに決まっています。

 

ですから、カウンセリングにおいては、カウンセラーの介入度合いはまずはなるべく少なく、その方が自分で自然に気づきに至るように願って、「場」を工夫するのがカウンセラーとしての大事な導入作業となってくることに繋がります。

 

2019年7月21日