精神症状の構造と回復(29)ー回復へ向けて⑤

4.回復へ向けて⑤ー導入(自己観察)

セッションが多少進んでくると、導入として「自己観察」ということをお伝えします。

 

これは、その方が今まで当たり前と思っていた価値観・思考・反応のパターンのようなもの、つまり防衛的なものに自分で気づいていくためのセルフワークと言えるものです。

自分でできるならば、自由連想に加え、カウンセラーとのカウンセリング以外の時間(もちろんそういう時間の方が大部分です)も自分でカウンセリングできるわけです。

 

症状が自我違和的か親和的かに関わらず、自分では防衛的なものの内容までは意識していません。

一方、セッションでは、自由連想で語られる具体的な思考や気持ちにカウンセラーが「おやっ」とか「あれ」と感じるものが必ず出てきますから、話が一段落した頃合いで、カウンセラーから「ある状況ではそういう見方やそのような行動がいわば自動的に繰り返されているように私にはみえます」などと対話を開始します。

 

すると「そう言われてみれば」とか「その状況では他の人はそう思わないんだ」というような単純なレベルですが、無意識的に自分の視野の狭さや思い込みがあったのかもしれないという自分への疑問をクライアントが持つようになります。

そういう所をとっかかりとして、従来の思考や気持ちの持ち方を日常生活でも眺め直してみてほしいということをカウンセラーは言います。

 

自己観察のスタートです。

 

自己観察がわりとすぐ出来るという方は、病態が重くない方と言えると思います。

一方、重い方は従来のやり方にかなり馴れている、つまり歴史が長い=親和的かつ無意識性が高いので、自分を疑うこと自体に馴れていない面もありますし、またそもそも安全基地が脆弱なために自分で自分に向き合うのに不安が強いということもあります。

このような方には、時間をかけてカウンセリングの場そのものを安全基地にしてゆく必要もあります。

 

「無意識を意識たらしめよ」とフロイトは言いました。

 

今まで無意識の領域にあったものを意識領域に徐々に押し出してくれば、今まで得体が知れなくゆえに恐ろしかったものについて、その姿を確認できますから怖さに代えて安心感がでてきます。

意識化できてくれば、理性で検討して今までの姿勢の不合理性に気づき、辛い記憶も過去の一記憶として整理できる、ということをフロイトは言ったのです。

 

自由連想は無意識を活性化させて意識に向けて押し出す(言語化する)作業、自己観察は押し出されたものを認識して安心し検討する作業と言ってよいでしょう。

 

2019年9月3日