精神症状の構造と回復(35)ー回復へ向けて⑪

4.回復へ向けて⑪ーカウンセラーの仕事(心理教育)

ここでまた少しカウンセラーの仕事です。

解釈等と同時に「心理教育」も行います(講義をしているわけではないので手短にではありますが)。

 

精神のメカニズムを知識として分かっていることは理性のレベルに留まるようにみえますが、混乱した状態を整理する良いテンプレートになります。

人によっては、メカニズムを知るだけでひとりで整理して回復していく方もいるくらいです。

 

カウンセリングが進んできて、過去の苦悩や防衛を理性的に理解し、感情的にもある程度腑に落ちたとしても、長年慣れ親しんだやり方ですから、そこに戻りたいとか、未知の精神状態に行くのは不安だ、という気持ちになるものです。

場合によっては、未知の世界に踏み出す怖さからカウンセリングに来談するのを尻込みしたりすることもあります。

 

精神分析ではこれを「抵抗」といいます。

ですが、そういう状態の時に、その意味を知ることができれば、むやみに混乱しないでしょう。

 

そこで、頃合いを見定め、「今後元に戻りたい気持ちが湧いてくるかもしれませんが、それは子供の時から慣れ親しんだ思考なのである意味自然である」こと、「しかしそこに戻るのは防衛に戻るということを知識としてまず持っておいてほしい」こと、また「その理解をもとにして、自己観察をし防衛自体を客観視し続けることや非防衛的な思考を体験してゆくことで徐々に戻りたい気持ちから離れることができる」こと、をしっかりお伝えします。

 

また、「抵抗」する気持ちのなかにこそ、その人特有の感情的なこだわりが浮き彫りになってくるときもあり、そのあたりは話し合って、解釈を試みることにしてゆきます。

 

セッションの順序を戻ると、「疾病利得」を説明する必要があるときもあります(この疾病利得も響きが誤解を与える言葉ではあります)。

 

心理的な状態のみならず、「ある場面」でのお腹が痛い、だるい等の身体症状(心身症状)は、自分にとって辛い状況から身を守ったり、逃避するための無意識の措置、つまりそういう「病」を自らが作り出すことで自分が得をする=自分を守ることができる、ということです。

 

これは防衛の一環と見ることができますが、本人はうつ等から引き起こされた、いわば受動的な「病気」と思っていて、無意識とはいえ能動的に自分が引き起こしている状態とは思ってもいません。

なので、その「ある場面」とはその人にとってどのように体験されているのか(例えばトラマ的な体験を連想させる場所・人間関係等)を吟味し、作り出している身体症状の意味を知識とともに理解していくと、ああ、そういうことかと、腑に落ちる感じがすることもよくあります。

 

尚、そもそもあまり精神症状とはいえないお悩みで来談される方もいます。

基本的にほぼ健康なのに、一時的に混乱していて、自分はうつ等ではないかと心配されている場合等です。

 

例えば、よく聞くと、金銭や時間の感覚・やりくりがルーズになっていたり、逆に融通のきかない計画になっていて、そこからゆったり考える余裕がもてなくなり、それが家族や職場での対人関係を客観視できないという問題に副次的に影響していることもあります。

 

なので、まず「精神的な問題よりも、こっちが問題ではないか」と前置きしたうえで、極めて現実的な対処方法(ファイナンシャルアドバイス的な時間やお金のやりくり等)があると示唆します。

すると、自分には病的な問題はないのだと自信を取り戻し、あとは自分で勉強して立ち直る方が多いと思います。

 

わずかな問題であれば、精神云々に拘泥するより、現実に向き合う方に促すのはカウンセラーの倫理でもあります。

 

2019年10月28日