参考になる本など(16)ー穂積純著「甦える魂」

穂積純著「甦える魂」(高文研)

心理関係の本も色々ありますが、理論や技法を書いた本というのは結局自分に残りません。

 

読んだ時には、なるほどなと思っていても、カウンセラーが経験を重ねていくと、自力で血肉化した知見の方が良いに決まってますから、ノウハウ的な本はすみやかに忘れ去られます。

 

理論だってある心の局面だけをしかも説明の都合上仮設定してるに過ぎないのに、それだけを金科玉条のごとく信じて現場のカウンセリングに当て嵌めていると、その理論でカバーしきれない所をポロポロと取りこぼして結果的に料金を払うに値しないカウンセリングとなるので、やがて理論本に対しても距離を置くようになります。

 

それはさておき、私佐藤が読んだ全ての心理関係の本のなかで心を打ち、今もその感触があり続ける数少ない本の一つが穂積純著「甦える魂」です。

 

ノンフィクションです。

著者自身が4歳の時から近親者に性暴力を受け続けたことで、成人後も重度のPTSD・精神症状を抱えてしまい、それに向き合い、自らの尊厳を回復しようと試みる軌跡が書かれています。

 

本人ならではの言葉というものは重いものです。

きれいに、整合性とって、わかりやすいように、といった読者に阿る(おもねる)・媚びる雰囲気はありません。

 

自分の感情に触れられない、家族への怒り、自分を大切にできない、他者と関係を築くことができない、被害者への偏見に満ちた社会への憤り・・・。

 

著者本人も書いてますが、この作品を世に発表するには相当の勇気が要ったことでしょう。

数ページ読むごとに、けっこう衝撃を受けたのを覚えています。

理論本よりもよほど真の意味で今の私の役に立っていると思います。

 

思うのですが、深く傷ついた人を本当に癒し励ますのは、甘い慰めやきれいな理屈ではない、

同じように深く傷ついた人の生のことばであり、奮闘する姿勢なのでしょう。

 

2020年1月13日