参考になる本など(19)橋本治著「「わからない」という方法」

「「わからない」という方法」橋本治・集英社新書

緊急事態宣言も延長されることが決まりました。

 

家で過ごす時間が多い生活も続きそうです。

アマゾンで本を検索すると、中古価格も普段より高くなっているので、今家で読書する人が多いのでしょう。

 

ところで、私はむやみに読書をすすめる人間ではなくなりました。

自らが自らの経験のなかで掴んだ、体得したものが決定的に重要であって、書物に重きをおき過ぎるのは危険でさえあると思います。

 

こんなことを言っておきながら、そのなんですが、まさにそんなことを書いていると思える本に昨年遭遇しました。

橋本治の「「わからない」という方法」です。

 

内容を簡単にまとめると、

 

わからないと思う自分を恥じることなく、むしろその「わからない」を大事にして、「わからない」を自分に合ったやり方で探求していけば、自ずと自らの身体が「わかる方法」を見つけ出してくれる。

 

こういうことになります。

 

現代社会では、「わからない」を保持し続ける人は、「へんな人だ」と少数派として排除され、自分の「へん」を捨てて多数派についた人は物事についてマニュアル的なやり方しか知らない人間になってしまう。

まあ、こんな感じの理屈っぽい説明は、この本のなかではほんの少しだけです。

 

橋本治自身が、セーターを編んだり、「枕草子」を現代語訳したりするその過程で、いかに愚直に、自分の内面からあるスタイルが滲みでてくるまで、辛抱強く試行錯誤を繰り返すのかが、よく書かれています。

 

パリの美術館を巡って、ある芸術家(絵画)の物語の構想を練る時も、予備知識なく、全く自分の感覚だけで絵を見続け、その感覚の中から見事にその芸術家の本質を掴み取ってゆきます。

 

カウンセラー的にみても、防衛のない、人間本来のオリジナルな生き方だなと思います。

こういうことが書いてある本なら、心理学の理屈を書いたものよりも、読んでもマニュアル化する弊害は少ないと思いました。

 

2020年5月2日