参考になる本など(21)ー「ものぐさ精神分析」

「ものぐさ精神分析」岸田秀著

前回まで強迫性について書いてきましたが、強迫性の体験を書いた本があります。

 

「ものぐさ精神分析」、初出は1970年代です。

 

本の前半には「日本近代を精神分析する」という論考など、興味深そうなことが書いてありますが、ごらん頂きたいのは、最終編の「わたしの原点」という岸田秀氏の強迫性体験を書いた一編です。

 

引用しつつ、コメントしてみます。

 

「強迫症状と抑鬱の発作はまだつづいていた。それまでわたしは、そうした症状からむしろ逃げ気味で、もっぱら抑えにかかっていた。精神分析の本を読み、その理論は学んでも、それを自分の問題とは表面的にしか結びつけなかった。親子関係の問題は親子関係の問題として悩み、それとは別のところで、強迫症状に苦しんでいた。両者の関連に気がつかなかった。」410ページ

 

→私が、前回まで書いた「実感」するところに至らず、頭だけで分かった気になっていたことが書かれています。

 

「強迫症状は、最後には「本を読んではいけない」という強迫的禁止一本にしぼられていた。そのたびになぜこの本を読んではいけないかのもっともらしい理由がくっついているのであった。しかし、ある日ふと、この強迫的禁止はわたしが自分と無縁な世界の人間となるのを望まなかった母の声がわたしの心に内在化されたものではないかと気づいたとたん、あれほど頑強だった強迫症状がまるで嘘のように消えてしまった。これはいったん気づいてみれば、なぜこれまでこんなことに気づかなかったのかが不思議なほど簡単なことであった。だが、これに気づき得るためには、その前にまず、母とわたしとの関係の徹底的分析が必要であった。それがなされていないうちは、たとえ他人からそういうことを示唆されたとしても、受けつけなかったであろう。」410ページ

 

→「母とわたしとの関係の徹底的分析が必要であった」というくだりは、前回に私が書いた「様々な感情や思いを孕んだ自分の年輪を実感することが大切」という部分に当たります。

 

「わたしの原点」は、ほんの数ページという短い文章で、淡々とした文体ですが、著者のなまの体験が実感をもって書かれている、私にはそう感じます。

 

実感してこそはじめて母の声が自分に内在化されている、という一見不可思議な境地(しかし重要な無意識領域)に触れることができるのだと思います。

 

2021年11月24日 佐藤